1.はじめに

今回、予防と健康管理ブロックの授業で2回の講義を使って2本のビデオを見た。1回目の講義ではうつ病についてのビデオを、2回目の講義ではアスベストについてのビデオを見ることとなった。どちらも現代社会で問題としてとりあげられている注目すべき内容のものであった。

 

2.キーワード

今回、たくさんあるキーワードの中から私が選んだのは「asbestos:アスベスト」,mesothelioma:中皮腫」である。選んだ理由としては現在大学の校舎や病院棟が工事中ということもあり、うつ病の話題よりもアスベスト関連のほうが今の私にとって少しでも身近に感じるものがあったからである。ここで、2つのキーワードについて私が調べたことを紹介する。

☆アスベストについて☆

アスベストは耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れており、また安価であるため、日本では「奇跡の鉱物」などとして珍重され、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、実に様々な用途に広く使用されてきた。しかし、近年になって、空中に飛散したアスベストを肺に吸入すると約20年から40年の潜伏期間を経た後、肺がんや中皮腫を発症するなどの発癌性を高めることが報告されている。したがって日本では19759月に吹き付けアスベストの使用が禁止され、2004年までに石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止されている。2005年にはアスベスト原料やアスベストを使用した資材を製造していたニチアスやクボタで製造に携わっていた従業員やその家族など多くの人間が死亡していたことが報道された。クボタについてはクボタ旧神崎工場周辺の一般住民にも被害が及んだ。日本では1970年代以降の高度成長期にビルの断熱保熱などにアスベストが大量に消費されていたため、その潜伏期間が丁度終わり始める21世紀に入ってからアスベストが原因で発生したと思われる肺がんや中皮腫による死亡者が増加している。2040年までにそれらによる死亡者は10万人に上るとも予測されている。

☆中皮腫について☆

胸膜、腹膜などの中皮から発生した腫瘍を中皮腫という。中皮腫には、腫瘍が一ヶ所に固まって発生する「限局型」と、胸膜や腹膜に沿って広くしみ込むように拡がっていく「びまん型」とがあり、「限局型」には、良性(他の臓器へ転移したり、周囲の臓器へ浸潤したりしない)と、悪性(他への転移や浸潤がある)とが存在する。一方、「びまん型」は、すべてが悪性腫瘍である。

中皮腫は非常に稀な腫瘍で、悪性胸膜中皮腫は肺がんと比べ、その発生率は1%程度といわれ、胸水の貯留(主に片側性)が起こり、それによる胸痛や呼吸困難が起こる。ほとんどの場合、アスベスト被曝が原因とされ、アスベスト被曝は職業上のものが圧倒的である。中皮腫は常に致死的で、中皮腫の患者のほとんどは、診断から1?4年以内に死亡する。化学療法や放射線療法には十分な効果がなく、手術で腫瘍部分を取り除いても癌は治らない。他の治療としては、できる限り高い生活の質(QOL)を維持しながら、痛みや息切れを緩和することに重点がおかれる。日本の中皮腫死亡者数は、19992002年で約5000人であるが、今後は発症数、死亡数とも急激に増加する可能性がある。一方、良性の中皮腫は、特にアスベストとの関連はないといわれている。中皮腫の症状としては、良性の中皮腫のうち、腫瘍が小さい場合はほとんど症状がない。

 

以上がキーワードについて私が調べたことである。

 

3.論文の概略

<アスベストに関連する肺病>

アスベストは自然界に存在する最も小さな繊維である。その柔軟性、耐久性、熱や化学腐食への抵抗性のために産業に広く使われてきたが、アスベスト繊維の吸入は石綿肺症、肺癌、胸膜プラーク、胸水、悪性中皮腫などを含む多くの呼吸器疾患を引き起こす。アスベスト被爆に起因する最初の死亡者は1907年に報告された。アスベスト被爆を規制する法律は1931年にイギリスで導入されたが、アメリカでは1971年になって初めて最初のアスベストへの被爆規制の法律が制定された。アスベスト被爆は現在規制されているが、患者は臨床上の長い潜伏期間のためにこれらの病気を持ちつづけ、その病気の兆しの提示が特定されない傾向がある。そのような患者にとって、職業歴が臨床上の病気の発見に重要な助けをもたらす。病気発症に高リスクの職業集団は、建設業界、ボイラーメーカー、造船所の労働者、鉄道員、合衆国海軍兵士などを含む。深刻なアスベスト被爆歴を持つ患者には診断テストと追跡調査をすべきである。特に深刻な被爆歴と呼吸困難を持つ患者には胸部レントゲンと肺活量を測定するべきである。アスベストへの被爆歴を調べる要素としては職業歴、およびその職業の持続時間や被爆強度(例えば、塵が目に見えたかどうか)を含んでいる。深刻な被爆基準としては、10年以上前から目に見える塵への少なくとも数ヶ月の被爆があったと定義することが出来る。アスベスト関連の病気の世界的な発生のピークはアスベストの使用が最も多かった時期(すなわち1960年代、1970年代)30年から40年後に起こると予想されている。最も長い潜伏期状態の悪性中皮腫の場合、2020年までにヨーロッパで発症数は増加すると予測されている。アメリカでは石綿肺症の有病率は知られていないが、2000年に石綿肺症の患者がいる病院は2万件にのぼるとの予想があり、根底に石綿肺症を原因とする予想患者死亡者数は2000人であった。そしてこれらの数はここ10年で上昇すると予想されている。アメリカの悪性中皮腫の発症数は2000年から2004年にかけて1年あたり2000件でピークに達すると考えられていた。別の研究では1985年から2009年にアスベスト関連の肺癌による死亡者は1年につき平均3200人いるだろうと示唆していた。プラークの存在は重大なアスベスト被爆を指し示す。異常な肺活量の測定結果、異常な診断画像でアスベスト関連の状態を疑われる患者に肺容量と拡散容量の測定を含む充分な肺機能検査が行われるべきである。石綿肺症の存在は肺癌発症危険因子のひとつである。したがって、呼吸困難、せき、胸部の不快感、減量などのような症状のあらわれは、迅速に十分な検査を必要とする。現在勧めていることは深刻な被爆歴や現在被爆中の人への監察をし続けることである。アメリカ胸部学会は病気の患者に3年から5年ごとに胸部レントゲンや肺機能検査を行うことを勧めています。検査は肺癌を早期に同定するのに役立つかもしれないが、スクリーニング検査は結果を改善するというよい証拠はなく、中皮腫へのスクリーニング検査は役に立たない。

アスベスト関連の各肺病に関して、肺癌についてはアスベスト被爆は肺癌の発育の危険を深刻に増加させる。肺癌はアスベストに被爆された非喫煙者にも起こりうるが、喫煙によってその危険性は数倍も増加する。タバコを吸うすべての患者はこの危険性について警告されるべきであり、患者の禁煙を助けるあらゆる努力がなされるべきである。肺癌の患者はインフルエンザと肺炎球菌のワクチンを接種すべきである。石綿肺症はアスベスト繊維の吸入から生じる繊維性の肺病で、多くの患者では通常比較的小さな症状を生み出す、非常に温和な無痛性の繊維症によって特徴づけられる。潜伏期は20年から30年で、労作性呼吸困難への訴えは更なる検査を促す。肺機能における最初の変化は拡散容量と労作性酸素飽和度の低下であるかもしれない。その過程がより重症になるにつれて全肺気量と肺活量にしたがって肺機能検査は制限の状態を明らかにするであろう。胸部レントゲンでは通常肺の下葉で際立って増加する間隙の様子を明示したり、しばしば胸膜プラークを明示したりする。胸部CT画像上では大部分肺の底の部分に間隙の増加を見られ、後に蜂巣状の像が見られることもある。あらゆる点において、石綿肺症は臨床的に特発性の肺繊維症に似ているが、特発性の石綿肺症が急速な進行経過をたどるのに対して石綿肺症は大抵の場合ゆっくり進行する。石綿肺症の自然経過に代わる効果的な治療法は現在存在しない。インフルエンザと肺炎球菌のワクチンは患者に有効に働く。アスベスト吸入への最も一般的な肺の病理学的反応は胸膜プラークの形成である。時間が経つにつれて抗原性は胸膜に蓄積され、石灰化するかもしれない。ほとんどのプラークはアスベストに多量に長時間被爆した患者のおよそ50%に生じている。ゆえにプラークはアスベスト被爆のマーカーになる。プラークは胸部レントゲンに必ずしも見られないが、CT画像では生検で発見されるプラークの50%まで確認するこができる。胸水は被爆後10年か20年以内に起こるアスベスト関連の胸膜疾患のもっとも

一般的症状である。時間が経つにつれて増大し、もろくなってくる。どんなに新しい胸水も結核皮膚試験と診断上の胸腔穿刺を含む徹底した検査を必要とする。悪性中皮腫は致命的な疾患で、生存期間は診断から平均して6ヶ月から18ヶ月である。病理診断は難しく、多くの場合、初めは誤診される。待機放射線療法は特に転移からの症状を減少させるのに効果的である場合がある。現在の臨床試験は外科的治療、放射線療法、化学療法の併用を強調しているがどの治療プログラムも生存率の改善につながることは示されていない。最近の研究はスクリーニングの道具として有用であるかもしれない血清マーカー(例えば、中皮と関係する血清蛋白)の同定に焦点が当てられてきている。

*アスベストが引き起こす各肺病の(T)症状、(U)普及率、(V)治療法、について*

@石綿肺症

 (T)呼吸困難、空咳

 (U)およそ20万人の石綿肺症の患者。毎年2000人の死亡者

 (V)特定の治療法なし。肺癌への監視。禁煙。

A肺癌

 (T)胸痛、せき、呼吸困難、喀血、減量、疲労、癌転移や直接浸潤によって引き起こされた症  

   状

 (U)アスベスト被爆に関係する推定肺癌死亡者は年間2000人から3200

 (V)外科、放射線療法、化学療法を含む多彩な治療法

B中皮腫

 (T)胸痛、せき、呼吸困難、減量、疲労、胸水、転移・心膜浸潤・食道圧搾・上大静脈への浸潤

   による症状  

 (U)およそ年間2000人の死亡者;発症率、死亡率は同じ

 (V)サポートケアに焦点を当てた専門的なアプローチ

   外科・放射線療法・化学療法(臨床試験進行中)を含む多彩な治療法

   局所的な痛みに対する放射線療法や生検域に沿って起こる転移の広がりに対する放射線

   療法

   胸水に対する化学的または外科的胸膜癒着術

C胸膜プラーク

 (T)通常無症状、胸部レントゲン上で偶然発見;石灰化したプラークに関連して耳障りの感覚

                       を引き起こすかもしれない

 (U)被爆した人の中で3%から58%;一般住民の0.5%から8%の間で普及

   地域間で普及率にばらつきが大きく、個々の被爆歴に関連する

 (V)禁煙。更なる被爆から退く。同時発生や他の呼吸器疾患の治療。

 

*実践として臨床的に勧められるべきこと*

 ・アスベスト被爆の危険は職業歴で評価されるべきである。

  スクリーニングは被爆の多い高リスク患者で考えられるべきである。

・胸部レントゲンと肺機能検査は3年から5年ごとにアスベスト関連の患者で実践されるべ   

  きである。

 ・禁煙が奨励されるべきである。

 ・インフルエンザと肺炎球菌のワクチンを石綿肺症患者か癌患者に接種すべきである。

 

4.考察

イギリスではアスベスト被爆を規制する法律が1931年制定され、次いでアメリカでは1971年になって初めて最初のアスベスト被爆の規制に関する法律が制定された。また日本においては1975年に吹き付けアスベストの使用が禁止されるようになったのだが、イギリスに比べると、アメリカや日本は40年もの間アスベスト規制に関する法律が制定されずアスベスト対策が遅かった。この間に両国の国民はアスベストにさらされ続けていたことになる。

アスベストに対するイギリス、とアメリカ、日本の対応の違いは、ある意味で各国の社会体制の違い反映している。国民の健康を重視すべきか、国の経済発展を重視すべきかという国の姿勢を示しているように思われる。イギリスと比較して、アメリカや日本においては国民の健康以上に経済発展に重きを置いたためにこのような対策のおくれとしてれあらわれたのではないかと思う。国の社会に対する姿勢がビデオの中でも紹介されていた。日本では政府はアスベストの危険性を認識していながらも、アスベストの使用禁止ではなく、管理使用という体制をとっていた。これは「アスベストの有害性は認めるが石綿は便利」という考えから政府全体で決めた方針であった。その結果、多くの国民が犠牲となる状況を招くこととなった。政府やクボタの重役たちが行ったように利己的な利益を求めるあまり、健康というものが軽視されてしまってはいけない。将来医者になる上で、人々の健康を管理していくことは重要な役目である。病気の被害が拡大する前に今回のような事態を招かないよう認識のあまい国や社会に健康への危険性や人々の健康の大切さを喚起していくことも医師の務めとして重要であると思った。

 

5.まとめ

今回の論文やビデオ、自分で調べたことを通して知ったことは、アスベストという物質の正体とそれによってもたらされる呼吸器疾患、特に悪性中皮腫との関連であった。悪性中皮腫患者数がピークに達しようとしている現在、一刻も早く有効な治療法を確立することが必要となっている。アスベストに対する解決策も充分に行われているとは言いがたいが、アスベストのような有害物質が私たちの身の回りにはまだたくさん潜んでいるかもしれない。今後そのような物質が出現したとき、その被害の拡大を防ぐためにもアスベスト被害から学んだ多くのことを活かし、社会全体で早期改善に繋げていきたいと思った。